Tale『おぼえてるかな』

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このTaleは、脱出マップ『Re:勿忘草』のnormal/trueENDのネタバレを含んでいます。

未プレイの方は閲覧非推奨です。

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「ッあ゛ぁ゛〜〜…頭ァおかしくなるぜ、こんなのよォ……」

「そうだね、君の頭部は最初っから変だとも」

「そのことじゃねェよ!!!!」

ハテナ頭の男と、コントのように話しながら本を漁っている。

「ホントにこんなトコに、この世界についての有益な情報なんてあンのかよ?さっきから同じトコをずっと足踏みしてねェか?」

「そんなことないよ?さっきだって、『井戸の等価交換についての規則性』とかいう本があったじゃん。なんて有益な本なんだ!」

「いや、あれよく分からん。なンだ雷様の生贄って。人死ぬじゃねェか。考えた奴は死ね。等価交換ってなんだよ。錬金術師か?」

「まーまー、落ち着いて深呼吸しなよ。そんなに焦っても良いことなんてないよ?」

「あー…くそ、全部やンなっちまうよなァ。なァ?オ医者サマ」

「そーだね〜〜」

ここ最近は、ずっとこんな感じで生産性の無い会話ばかりしている。この世界では睡眠も食事もいらないから、勉強漬けの日々で鍛えられた精神力もあり、狂ったようにこの世界についての情報を集めていた。

でも…まあ、うん。確かにちょっとくたびれてきちゃったかも、だけど。

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「…なァ。『シバナ サナ』って覚えてるよな?」

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ぢく。

「…知らないなぁ。誰?」

ハテナ男は何も言わず、頬ずえをつく。

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………………

…あまりに沈黙が長い。そういう感じですか。ホントの事を言うまで出られない部屋ですか。

「…あぁ〜。思い出したよ。あの羽虫入り弁当を押し付けてきた子ねー。今思い出したや」

根負けした。

「…こっちァ事情知ってんだぞ?」

「頼むよ。こうでも言わないと泣きそうなんだ」

私華 紗奈。わたしの一番の親友。このデリカシー0ハテナともそれなりに長い付き合いではあるけど、あの子と歩んだ時間はそれよりもっと長い。

いつも周りの事を気にかけてくれて、底抜けに優しくて、ふわふわしていて可愛くて。

成績はあまり良い方じゃなかったから、私がいつも勉強を教えてあげてたな。

…でも、私とつるんでたから。わたしは皆にとって、少し、鼻につく奴だったから。

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紗奈は、死んじゃった。

私が殺した。

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「さーちゃん」

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口に出た。やばい。絶対に口に出さないようにしていたのに。じわりと目が熱くなってきた。さーちゃん。わたしの一番の親友。わたしに無くてはならなかったもの。ねえお願い、止まって、わたしの脳みそ。絶対無理だ。ねえ、さーちゃん、私、本当は勉強なんて好きじゃないんだよ。大っ嫌い。だけど、だけどさ、さーちゃんがわたしに頼ってくれるのが嬉しくて、そのために、それだけのためにいつもいつも頑張ってたの。授業は真面目に聞いて、予習をたくさんして、頭に無理して詰め込んでさ、毎日毎日、ずーーーーーーーーーーっと。

ねえ、さーちゃんがいなくなって、私はなんのために勉強すればいいの?

将来役に立つ訳でもない知識だけが残ったこの頭で、私は、ねえ、私はさ、助けてよ、私は生きてていいの?そりゃあトバリのために生きてるよ、今ここでのうのうと。全部言い訳だ。私にはもちろん存在価値なんてないから、無理やり価値を創りだしてるだけじゃないの?

お前は親友を殺したんだよ、皇 明衣。お前がこの先どんな善行を積んでも、どんなことをしても、その十字架が消えることはないんだよ。私だよ、覚えてるかな?私華 紗奈だよ。私の事を殺したこと、ずっと忘れないでいてくれる?

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「——い。おい、落ち着け。悪かったよ」

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は、とぐるぐる回っている目が機能を取り戻す。

最初に捉えたものは、大量の吐瀉物と透明な液体が染み込んだ床。

続いて喉も機能を取り戻す。…なんかめちゃくちゃイガイガする。痛い。

「あーァ、んなに吐いてくれちゃってさァ。さっきのお前、凄かったぞ。レンガあれば5つくれェ願い叶ってたんじゃねェか?」

くはは、と笑う。見た事のない量の吐瀉物を前にして、本当に凄かったんだろうなぁと他人事のように思う。

「…っはー…ごめん。ちょっとスッキリしたよ」

「そーか」

私は目と口元と拭いながら言う。ハテナ男は間の抜けた返事をする。

「それでさ。何を言おうとしてたの?紗奈の話題、出してもいいよ。たぶん今の私なら大丈夫だから」

「あー……ンー…吐くなよ?」

「うわ、嫌な予感ってやつがするね。いいよ」

「……あの家、さァ」

ハテナ男が、ぴっ、と赤紫色の屋根をした家を指さす。

「うん。あの家がどしたの」

「……」

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「あの家は、『私華 紗奈』だ」

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「は?」

随分間抜けな声を出してしまった。え?

「どういうこと」

「あの家の本、見てたんだがよ。”私華 紗奈”が体験したことばかりが綴られてンだ。学校のことだったり、家のことだったり。なにより、おめェとの思い出のことが一番多く書かれてた。ポップな字体で楽しそうだったぜ?」

ハテナ男は続ける。

「でだ。おめェはこの家の本ばっか読んでたから気がついてねェだろうが、他の家にも誰かの思い出が綴られた本が多く存在してンだ。なァ、メイ。頭の良いおめェならわかるだろ?」

…相変わらず臭い言い回しをするなぁ。うえ、腐乱臭がしそう。

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「…この場所の家は、”人間”が素体ってことね」

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「ッてことだ」

…なるほど。つまり、この世界の建築物は全て人間からできてるってことだ。なんで紗奈(だったもの?)がここにきたのかは知らないけど、死体も有機物なんだから誰かに投げ入れられたんだろうか。でも誰が?なんの為に?うーん…ちょっとわからん。

「…ま、ここ詰めてもしょうがないか。んー……あーー、なんかもー、なんも考えたくなくなってきちゃったな。ねー、なんか話してよ。今の話題とは関係ないやつでお願い」

「おめェ、案外気分屋だよな…じゃ、俺の妹の話とかどうだ?」

「え、いいの?確かに気になってたけど」

「あー。あんま長話する気はねェぞ?」

そう言うと、ハテナ男はあぐらをかいて座る。

「その日は俺が料理担当だったンだよ。妹が吹奏楽で全国大会に行くことが決まったッてんで、妹の好物のハンバーグでも作ってやろうと思ってな。」

「ンで料理してっとリビングから悲鳴が聞こえたモンだから、火を止めてリビングにすっ飛んだ。したらよ。」

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「ピラミッドがあった。妹の頭にな。」

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うわぁ…なんて最悪なタイミングに奇病が発症したんだ。

「妹はそれに絶望して、自殺する方法を探し始めやがった。だから最悪なコトになる前に、死に物狂いでなんとかする方法を探したんだ。おめェみたいにな。」

「で、ここに来たんだね。腑に落ちたしビックリしたよ、君はいつも何も考えずに動いてそうだったからさ。そういう熱い感情もあったんだね?」

「ははッ!言ってくれるじゃねェか!そりゃァお前、こんな頭で人様から感情なんてわかる訳ねェよ!俺はいつでも愉快に振る舞ってたもんなァ!」

ぢくり。

「はは…なァ。俺の感情とか、わかんねェだろ。表情が見えねェもんな。涙も流せねェから。なァ俺、俺さ、今どんな表情してると思う?」

…さっきの自分を思い出す。忘れたかったこと、口に出すべきではないことを口に出した時の自分を。

「……ごめん。やっぱりやめよう、この話は」

「はは」

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会話をぶつ切りに終え、また2人は本を漁り出す。

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「なァ」

「うん」

「良かったな、また弟に会えて」

「うん」

「弟がここに来たこと、嬉しいか?」

「ううん」

「ははッ」

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「”えっちベルト”」

「は?」

急になんだこいつ。さっきまで『俺が悪者になってやるよ』とかかっこ付けてたやつが。これから井戸に入る恐怖で頭おかしくなったの?

…元々おかしいけど。物理的に。

「ッて言うんだろ?俺のオールドフレンズが教えてくれたンだよ、その足に巻いてるソレの名前だ。俺もファッションで付けたりァするが、お前そういうタイプじゃねェだろ。一体なんの為に付けてンだって気になっててよ」

「……あー、コレね」

言ってなかったっけ。

「これはトバリがくれたものだよ。腕輪だったんだけど、わたしの腕が細すぎて上手くフィットしなくてさ。足に巻いたらちょーど良かったから、ずっと付けてるんだ」

私は続ける。

「たとえ時が経って思い出が風化しちゃったとしても、この腕…足輪を大切にしてる限りはいつでも過去への扉を開くことができるんだ。トバリと共に過ごした時間、満点の夜空を一緒に見上げた、幻のような冒険の記憶。…幸せになれない私は、記憶の底の幸せの欠片だけを味わって生きるしかないから。」

「…そうか。くははッ、やっと全部スッキリしたぜ」

ハテナ男は空を見上げながら言う。

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「さて。ヒーローになるんだろ」

「うん。全部、覚悟できてるさ。上手く目を抉れるか心配だけどね」

「オ医者サマなんだから、心配ねェさ」

ハテナ男はくは、と笑って私に背を向ける。

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「じゃァな、ヒーロー。『悪役』を、してくるさ。」

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