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注意:このTaleには、脱出マップ「水鏡物語」のネタバレが含まれています。
未プレイの方は閲覧非推奨です。
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「『一本道』?」
ミカが怪訝そうな声をあげる。
「うん。他の人の並行世界は、こんなんじゃないんだけどなぁ…」
黄色の眷属もまた、不思議そうに呟く。
「普通の人の並行世界って、全員が全員と繋がってる感じなの。なんていうか…アリの巣みたいな感じで、複雑に絡まってる〜って言えばいいのかな?」
黄色の眷属は続ける。
「でも、ミカさんの並行世界はそんなんじゃない。他の全員がミカさんとだけ繋がってるの。えっとねー、つまり…全員ミカさんとの一本道しか並行世界が存在しないんだ」
「ふむ……私の権能の影響でしょうか?」
「うーん…それはわかんないな。でも、やる事は別に変わんないんでしょ?手間が増えるってだけで。」
「ええ、それはそうです。それでは黄色、私を並行世界の精神に飛ばしてもらえますか?」
「うん、オッケー!」
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「…もしもし、お嬢さん。いまは1人ですか?」
「うん…?え?だれ?」
ツインテールの少女はこちらに振り返る。見た目の推定は中学生くらい。
「申し遅れました、わたくしの名前は旅籠 美戈。あなたの名前を教えて頂けますか?」
「私?私はフィーネだよ。今は手作り用のチョコレートを買いに、ショッピングモールに出かけてるの!」
「チョコ?…ああ。もしや、今は2月ですか?」
「変なこと言うねー。今日は2月13日だよ?男子は明日になってようやくソワソワしだすけど、女子にとってはもうドキドキしてるんだから!」
「なるほど、明日はバレンタインですか……それはドキドキしますね。」
うーん…恋愛感情真っ盛りの時期の女子か。いきなり目的の質問をしても、怪しまれながらNOと言われるに決まっている。どうしたものだろう。
「相手はどのような人なのですか?」
「んー?”頭カチカチ君”だよ。一緒に洞窟を探検したりしてさ。壊れそうな壁の周りの壁だけが綺麗に壊れたときは、『まさか!』って笑いあったな〜。」
「…ああ」
既視感の正体はそれだったか。
「フィーネ。彼と共に人生を歩み、共に生涯を終えたいですか?」
「え!?…う、うん。」
赤面しながら同意する。言ってから、結婚式の神父まがいな事を言ってしまったなと苦笑する。
「そう言ってくださってよかったですよ。これであなたは、彼に取り残されることはありません。」
「…?ねえ、何言ってるの?」
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途端、世界がぱきんとひび割れる。
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「大丈夫ですよ、フィーネ。あなたにただ、人間としての幸せが訪れるというだけです。」
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「人間は、ひとりぼっちでは寂しいですからね。」
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「おかえり、ミカさん。どうだった?言われた通り、わたしはなーんにも見てないからさ」
「感謝します、黄色。無事に繋がりを解くことができました。あと何人いるんでしたっけ?」
「えっとー…5人、とか?」
「なるほど…わたくしと同じ寿命の人間を残す訳にはいきません。この調子で繋がりを解いていきましょうか」
「そうだね!じゃー、次の並行世界はー…」
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閑散とした夕暮れの教室。
机の数は12脚。
外からはカナカナとひぐらしの声が聴こえてくる教室に、一人の少女が座っていた。
「はじめまして。お隣、宜しいでしょうか?」
「その席に座らないでください」
後ろ髪に銀のメッシュをかけた少女に跳ね除けられる。…もうなにか地雷を踏んでしまったのかもしれない。
「あぁ、でも…わたしの左隣なら大丈夫ですよ」
「あら、良いのですか?それでは失礼しますね」
かたん。ミカは椅子を引いて、少女の左隣に座る。…右隣に座ってはいけないナニカでもあるのだろうか?
「急に申し訳ありません。わたくしの名前は旅籠 美戈と申します。あなたの名前を教えて頂いてもよろしいですか?」
「………」
「…出席番号、10番。柊 霞。」
「霞さん、というのですね。あまり時間もありませんので、手短に質問をさせて下さい。」
「ええ…はあ、どうぞ」
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「あなたは死にたいですか?」
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「はい」
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即答だった。少し予想外の反応に、ミカはほんの少し目を丸める。
「…まあ、その返事が一番すんなり行くのですが…少し心配になりますよ。どうされたのですか?」
「あなたには関係ないでしょう。薄気味悪い質問タイムはそれで終わりですか?」
霞は突っぱねるように言う。そりゃ相手からすれば、いきなり現れていきなり死にたいか?とか聞いてくる変人だ。そんな反応をするのも当然だけれど。
「…そうですか。あなたがそう言うなら、深く言及はしませんが……」
「…あら?」
霞の隣の席に、剥がれかけの名前ステッカーが貼ってある。
しかも…霞にしか目を向けていなかったせいで気にしていなかったが、ここはたたらの並行世界で見た場所と限りなく酷似している。
……ああ、なるほど。合点がいった。
「. . . 『凛』ですか」
ピクリ。俯いていた霞が体を揺らす。
「…ああ。彼女が、死んでしまったんですね」
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だん
耳をつんざくような破裂音が教室に響く。
霞が床を蹴る音だと気づくのに、0.3秒を要した。
ミカが座っていた机が霞に蹴り飛ばされ、鈍い音を立てて散乱する。
「ぐ」
霞に首と右手首を捕まれ、教室の床へと叩きつけられる。
「なんなんですかあなたは!?いきなり現れたと思ったら好き勝手言ってきて!!凛のことをなんにもわかってないくせに分かった風な物言いをして!!当てつけですか!?っ、あんな質問するんだったらとっととわたしを殺してよ!ねえ!!」
ぼたぼたぼた。ミカの頬に、霞の涙が落ちていく。
「…霞。その、げほ、話です。説明、させてください」
とんとん、と首を絞める手に優しく合図する。霞は歯を強く噛みながら、嫌そうに手を緩める。
「いいですか、霞。わたくしはあなたの”寿命”です。わたくしの寿命はゆうに1000年を超えてしまう。だから、わたくしと繋がっている限り、あなたは死ぬ事ができない」
「…じゃあ、とっとと繋がりを切りましょうよ。わたしはその後勝手に死にますから」
「……」
ミカの目が、微かに黄色く発光する。
「…わたくしは知っていますよ。あなたは死んだ後の凛と会うことができました。そこで、あなたはこう言い放ったんです。”あなたとまた会えるまで、わたしは生きてやりますから”って。」
「また彼女と会える日まで、精一杯生きてやるんじゃなかったんですか?」
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静寂。
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「…なんで」
霞の手から、力が抜ける。
「そんなこと、しってるんですか……」
霞は泣き崩れる。
ミカは霞をそっと抱き寄せながら、言葉を紡ぐ。
「わたくしはなんでも知っていますよ。だって、皆を見守る神様ですからね」
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ぱきん。
世界が、硬直する。
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「ミカさん、おかえり。どうだった?」
「…ええ。恐らく救えたと…そう、信じていますよ。」
「そっか、それならよかったよ!じゃあ次はねー…」
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2人目の霞以降は、特に厄介な展開になることなく、すんなりと永遠の命からの救済が進んでいった。
「おつかれさま、ミカさん。あと一人だよ。」
「ええ。黄色、目は大丈夫ですか?」
「うん、ぜーんぜん大丈夫だよ。私の力は消耗するものでもないしね!」
「なら良かったです。では、赴いてきますね。」
「うん、いってらっしゃーい!」
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神社の鳥居の下に飛ばされた。
時間帯は深夜。
「ここが、最後の並行世界ですか…」
周囲を見渡す。人の気配は感じられない。
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「はずなのですけれど」
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いつの間にいたのだろうか、神社の石畳の先に一人の巫女服を纏った女が立っている。
「こんにちは。うちの名前は海露だよ、やで」
すんなりと、どこかぎこちなく挨拶してきた。
普通の人間は、天使の輪っかがついた自分の姿を見て少しは動揺する。
「わたし…うちも名乗ったんだから、あなたも名乗るべきだよ、やで」
…ああ…?
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「. . . 『青色』ですか?」
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「えっ?そ、それはだれなの、やで?」
「青色ですね?」
「うん?だからだれなの、やで?」
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「『青色』。」
ばきばきばき。ミカが羽を広げる。
「わーーーうそうそうそ!!青だよ青!!!!」
ミカは広げかけた羽をすん、と収納する。
「最初から言えばいいのに、全く…こんな所で何してるんですか、青色」
「えっとねー、フツーの人間として生きるために、ミロって子の体を乗っ取ったの!どう?かわいーかな?」
「……青…貴方は本当に」
ばきばきばき。
「待って待って落ち着いて!!ちがうの、悪いことしたなあーーって反省はちゃんとしてるの!だからおちついて!!」
「…はあ…全くもう」
とはいえ、どうしましょう。
青がわたくしの並行世界の子に取り憑いた以上、外的要因以外の単純な寿命という概念は存在しなくなりましたし。
…まあ、繋がっておくメリットもなさそうですから、切っておくのが丸いでしょうか。
「青色。実は、その子はわたくしの
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「や」
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鳥居の後ろから声を掛けられる。
振り向くと、そこには白いフードを深く被った男が突っ立っていた。
「えっ」
ばつん。男を見るや否や、『青色』は亜空間からスタンガンを召喚する。
「ミカさん、何あれ」
青の眷属の言葉を無視して、ミカは告げる。
「あら、”災厄”より最悪の存在ではありませんか。わたくしに全てを押し付けておいて、今更なんの用事で雁首を引っ提げてきたのですか?」
「うーん、なんだか嫌な事をしそうでさ。君と青の縁を切らない方が、面白い展開になりそうじゃない?って思ってね。」
「あら、そうでしょうか?しかし考え無しに行動するとは、愚劣ここに極まれりですね。あなたにはどうせ幸せな世界なんて用意できないのですから、黙って馬鹿みたいに静観していてください。」
「…フーン。まあ、確かに考え無しはいけないか。お前に嫌われたくはないから、そこの判断は任せるさ。」
「二度とわたくしの前に顔を出さないで下さいね、嫌われ者」
にこり、白フードは口角を上げてその場から消える。
「…えっと、ミカさん?いまのはなんだったの?」
青色がばつんと手元のスタンガンを消しながら質問する。
…ミカは、溜息を吐きながら。
「非常に不愉快な人物です。直接関わってくることはあまりありませんが、人をいつでもデスゲームに巻き込むことができるスイッチを持っている…そんな、気味とタチが悪い人物なのです」
「ふーん…ま、私の邪魔しないならそれでいいけど」
青は人差し指でくるくると髪を巻きながら呟く。
「…まあ、いいです。少し気分は悪いですが、あなたとの縁を切らせて頂きますよ」
「ん?おっけー、よくわかんないけどわかった!また会おうね、ミカさん!」
「. . .ええ。また、会う日まで」
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ぱきん。世界が壊れる音。
…”また会おうね”、ですか。
自分で別次元に行っておいて、呑気なものですね。
ミカはそう呟き、静かに目を閉じる。
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「おかえりなさい、ミカさん。どうだった?」
「黄色、ありがとうございます。彼女が元気そうで安心しましたよ。」
「そっかー。私もあの子がどっか行っちゃってから会ってないし、たまには会いたいなあ…。」
「…あら。わたくし、誰に会ったとか言ってましたっけ?」
「…あっ…!」
しまったという風に、黄色は口を抑える。
「まったく、わたくしの眷属は本当に困った子ばかりですね」
ミカは笑いながら言う。
「ぐぐ…そういえば、ミカさんみたく簡単に並行世界の繋がりを切れるなら、なんでたたら…と、凛はそうしなかったの?」
「簡単じゃないからですよ。わたくしは黄色のさらに上位の存在なので黄色の力もコントロールして繋がりを断ち切れますが、普通の人間ではそうはいかないでしょう?」
「あー…それもそっか。ま、とにかく無事に終わってよかったよ!」
「ええ。黄色もお疲れ様でした。」
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…………
本当は、わかっているのです。
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黄色、あなた自身は気づいているのですか?
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あなたは、そう遠くない未来で、彼に殺されてしまう。
あなた自身の寿命は、そう長くないことを。
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…楠野 寧夢。
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眷属の一人も守れやしない哀れな神様のことを、どうか…どうか、赦してください。
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