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このTaleには、マップ『若幸のソラ』のtrueendのネタバレが含まれています。
未プレイの方は閲覧非推奨です。
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(………)
親子がやってきた。
二度、軽く頭を下げる。
ぱん、ぱん。手を打ち鳴らす。
もう一度深く頭を下げて、親子は仲睦まじそうに絵馬の方へと足を向ける。
(……あ)
母親のポケットから、するりと花柄のハンカチが落ちていく。綺麗なハンカチなのに、失くしてしまうのは勿体ない。
(…声をかけてあげないと)
「あの、ハンカチ落としましたよ」
親子は変わらず、絵馬の方に進んでいる。…聞こえてないな。
拾って持っていきたい。
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すかっ
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(………)
伸ばした手が、ハンカチをすり抜ける。
(……….)
すか、すか。両手で拾おうとしてもうまくいかない。持てない。触れない。
(………)
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ふと、手のひらを宙にかざす。
肌を透けて、向こう側の景色が見える。
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(…………わたし…………)
(………いつ、解放されるんだろう…………)
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私の名前は折宮若葉。14歳の時に死んじゃって、それからずっとこの神社…「神乎神社」の地縛霊として存在している。
神乎神社の領域を出ようとすると意識が奪われ、気がつくと神社の境内で目が覚める。つまるところ、私はここから出られない。
(…水河、冷紗、それから手々は…ちゃんと成仏できたのかな。)
(…そうだといいな)
そんな事を考えながら、たまに神社を参拝しに訪れる人を見送るだけの日々が続いていた。
…最近、参拝客が減ったような気がするけど。
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『Q1.ここは本物の世界?』
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えっ
男性の声が響く。どこから聞こえたの?
…とにかく、何かこの状況を変えられるかもしれない。乗っておこう。
「……いいえ」
『はは、残念。無慈悲なことに、ここは本物の世界さ』
声が響く。正直間違えたうんぬんよりも、久しぶりに誰かとコミュニケーションが取れたことに感動している。
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『Q2.幼なじみの3人に会いたい?』
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今度は息を飲む。……そりゃ
「会いたいよ」
微かに笑う声が聞こえる。
『”成仏していてほしい”のに?面白い矛盾だね。』
そりゃないよ。じゃあ何?
あの3人に、私と一緒にここで苦しんでいてほしい…だとか。
言えば、よかった?
『はは』
ぱちん、空気が弾ける。
弾けた場所から、白色のフードを被った男が現れる。顔はフードでよく見えない。
…私に向かってくる。
「あなた、誰?なんで私が見えているの?」
男は若葉の前で立ち止まり、しばらく顔を見つめる。
『……』
『捨てられたんだよね、俺』
「……え?」
『お前は用済みだって言われて殺されたんだ。散々言われた通りやってきたのに酷いよな?だから、俺はお前と同じく死人ってワケ』
……そうなんだ。この人も、幽霊なのか。
「…そ、か。こんなこと言うとちょっとあれだけど…仲間がいて安心したかも。私、ずっと1人ぼっちで寂しかったからさ」
『ははは、そりゃどうも』
男と話しながら、空を見上げる。生憎の曇り空。雲がなければ、綺麗な星が見れたんだろうな。
「そうだ、あなたの名前は?私は折宮若葉。若葉でいいよ!」
『あー…俺、名前無いんだよね。殺される前はカミサマをやってたからさ』
「カミサマ?って…もしかして、ここの…!?」
若葉が身震いする。
『はは、全然違うよ。ここの神とは、そもそも神様としてのベクトルが違う。心配しなくても、俺はこの神社の神罰なんぞとは無関係さ』
「なんだ…よかったぁ……」
そんな話を、男と小一時間くらい続けた。表情筋がこんなに動いたのは、死んでから初めてだった。
『…………』
『なあ、若葉。こっから解放されたい?』
「え」
「……うん」
『俺、知ってるんだよ。この神社の境内に、大きなペンダントがあるだろ?』
「………まあ」
それを触ってしまったから、こうなったわけで。
『でさ。そいつは生きてる間に触ると呪われるけど、死んだ後に触ると逆に呪いから解放されるんだってさ。お前がここに縛り付けられてんのが呪いのせいだとしたら、それで解放されるんじゃない?』
「…ほん、と?」
とんでもない吉報が流れてきた。彼の話がもし本当なら、この地縛から解放されるかもしれない。…けど。
「あなたはどうなるの?私と同じように、成仏できてないんだよね?」
『あー、俺のことは気にするなよ。こう見えて俺は、生前では数え切れない程悪いことしてきたんだ。その報いだと思って、大人しく受け入れるさ。それに…』
『…俺が苦しんでも、皆は喜ぶだろうさ。”今までの報復だ、ざまあみろ”ってな』
…そうなのかな。こんなに優しいのに。
『お前の会いたいやつらも、きっと上で待ってるだろうからさ。早く行ってあげないとだろ?』
「……うん。わかった。ほんとに、ありがと」
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神社の境内。
例の”神物”が、変わらずそこにある。
『それに触ったら、成仏できるはずさ。保証はできないけど、たぶんね』
「…わかった……」
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「……あのさ」
若葉が男の方に振り返る。
「あなた、悪い人じゃないでしょ」
『そんな事ないさ。悪い人だよ』
「悪い人は、こんなに人に親切にしないよ」
『…さあね。』
「………」
「ごめん、ありがとう。…元気でね」
ちょん、とペンダントに触れる。懐かしい、前もこんな触り方をしたっけ。レイシャが怖いもの知らずって感じの鷲掴みをした時は、思わず笑っちゃったな。
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………
徐々に体がふわふわ浮く、とか期待してるんだけど。一向にその気配がない。なんならちょっと
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ずぐん
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「おぇ゚」
な に
体が重い。まるで地球の重力が何百倍にもなったかのような、肺が潰れるような重さを感じた。
神社の床に押し付けられながら、必死に顔を上げる。
「ねえ、ちょ っと…何こ、れ、 」
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『バァーーカ』
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「 は 」
彼がどこから取り出してきたのか、立て札を持って近づいてくる。その立て札には、
『ドッキリ大成功』
…の文字がでかでかと書かれている。
「 どういう こと」
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『全部 嘘だよ♡』
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男は満面の笑みで言う。
『俺が殺されたってやつ、アレ嘘。ただ俺がお前と喋る権限を持ってるだけだよ。あと、ペンダントに触れると呪いが解けるってやつ。アレも嘘。諸悪の根源に嬉々として触れにいくとか、頭やられてんじゃねえのって思いながら見てたよ』
「…なん」
なんでそんなことを。ずっと苦しくて、寂しくて、それでも最近ようやく希望が見えてきたんだ。
『悪いことをしてきたってのも嘘。エンタメを提供するための必要経費ってやつさ。お笑い芸人なんかも、ドッキリにかけられたら内心”オイシイ”なんて思うだろ?それと同じさ。』
『だから、お前をエンタメにしてやったんだ。神社に縛られる絵面がずっと続くだけのバラエティなんて、なんーにも面白くないだろ?刺激的な変化が必要だったってわけさ。』
涙は出ない。ただ、心臓を締められている気分だけが続いている。生きた心地がしない。…もう死んでる、けど。胃に鉛玉を詰められた気分が続いている。
『もう俺は二度とここには来ないよ。お前はこれからずっと一人ぼっち。いつまで経っても折宮若葉はここに縛られ続ける。死人の時間が未来に進むとは限らないんだからさ』
そう言い残し、白いフードの男は消える。
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「…っ」
気持ちの整理がつかない、けど。
……何をするにも体が重すぎる。
とりあえず、ペンダントから離れないと。体を引きずるように、神社の本殿の出口へと向かう。
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あれから、どれだけの時が経ったのだろう。
元号もいくつか変わったらしい。それでも、私はここに縛られ続けている。
賽銭箱を背もたれに、ずっとずっとここにいる。
笑い方なんて忘れた。たまに来る幸せそうな参拝客を見ると、羨ましいなと思う。
この神社に訪れる客も明確に減っていた。たぶん、私たちの事件を皮切りによくない噂が広まったとかだろう。…私と同じ目に合う人がいなくなるんだって考えたら、きっと良いことなんだろうけど。
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「あんた、どうしたん」
……?
さっきの客はまだ帰ってなかったのだろうか。
だとしても、こんな関西弁を喋るような客ではなかったと思うんだけど。
「おーい、聞こえてへんの?あんたに言ってるんやで、緑眼のお嬢ちゃん?」
ひらひらと目の前で手を振られ、思わず目を見張る。
「私が見えてるの?」
ビクリとして顔を上げると、そこには巫女服を羽織った女の人がいた。
「うんうん、ハッキリ見えとるで!なんてったって、うちはこの神社の立派な跡継ぎさんやからな!霊感あんねん!」
両手を腰に当て、ニカッと笑う。…いい人そうだけど、まだ信じられない。だって私は、そんな雰囲気に騙されたことがあるから。
「…用が無いなら、どこかに行ってほしい。私はこの神社から出られないから。あなたは私と違って、どこにでも行けるでしょ?」
「…あー、あんたもしかして、この神社の地縛霊の子?なんかじいちゃんが言いよったわ、この神社には地縛霊がおるんやって。もしかしなくても、あんたの事やんな?」
「…知らないけど。そうなんじゃない」
素っ気なく答える。誰も信じられない。
「あんた、名前はなんなん?よかったらお姉ちゃんに教えてや!」
「……はあ。若葉だよ、折宮若葉。14歳で死んだ。死んでから何十年経ったのかはわからないし、数える気もない」
「……へえ、若葉ちゃん、なあ」
巫女服のお姉さんは手を組んで何かを考えている。なんだろう。…なんでもいいけど。
と、唐突に組んでいる右の手をピースに変える。
「質問が2つあるんやけど、答えてもろてええ?」
「……私のトラウマと被るね。いいよ」
「そうなん?でも、結構大事なことやから正直に頼むで!」
「ほな、さっそく1問目や。あんたの友達に、”スイガ””レイシャ””テテ”っておる?」
……この人には本当に驚かされる。なんでそんなにピンポイントで明瞭な質問が来るんだ。
「いたよ」
隠す理由もないので、正直に答える。
「あー…やっぱ?うちの部屋にあった大罪人リストっちゅー本、あれほんまもんやったんやね」
語りかけるように言われる。知らないよそんな本。
「じゃあ、2問目。その子ら、黄色/青緑/オレンジみたいな目の色しとる?」
……この人は何者なんだろう。
「そうだよ」
「やんな!」
そう声を弾ませると、お姉さんは私の胸に御札のようなものをぺしっと貼る。ホラーゲームとかでよく見る、禍々しい感じの御札。あれ、私もしかして悪霊だった?
「上、見てみいや」
「うえ?……え」
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雲より少し低い場所に。
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”あの3人”がいる。
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「…な」
途端にふわりと体が浮き、空へと…3人がいる場所へと上がっていく。
お姉さんは歯を見せて笑いながら、わたしのことを見上げる。
「行ってきーや。あの子らはあんたの事、ずーっと待ってたみたいやで?」
あまりの急展開に頭が追いつかない。けど、一点の曇りもなく確信したことがある。
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……わたしは、たったいま、祓われた。
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………解放、された。
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「…っ」
「…おねえさん、ありがとう……」
若葉は涙を浮かべながら、3人の元へと飛び立つ。
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「うちが小さい頃から、ずぅっと空ん上に子供がおったんやもんなぁ。よっぽど心残りのある子らなんやとは思っとったけど…」
巫女服の女は手でひさしを作る。視線の先には、泣きながら抱き締めあっている4人の姿。
彼らはそのまま空高く登り、消滅する。
…1人取り残された巫女服は、満面の笑顔で。
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「なはは。ドッキリ大成功、ってやつやな!」
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