Tale『一番星』

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このTaleには、脱出マップ「アモルの御影」のHappyENDのネタバレが含まれています。

未プレイの方は閲覧非推奨です。

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昼寝。

何よりも尊く、人類が最も謳歌するべき素晴らしい存在。

今日は日曜日なので、気の赴くまで昼寝をたっぷりと堪能することができる。

「俺は、幸せ者だな…」

そう呟きながら、ごろんと横になる。

瞼を閉じながら、意識を遠くの方へと—-

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『ガムーーーーっ!!!!!!!!!!』

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「どわぁぁ!?」

爆弾が投下されたようなどデカい音が頭に響く。

驚いて顔を上げると、そこには丸眼鏡をかけ、黄色のパーカーを羽織った見慣れた顔があった。

「イト…?どうしたんだ、そんなに焦って?」

「ねえ聞いて、大変なの!フロちゃんがいない!!」

「…フローギアスが?」

先日、とある病院からフローギアスという名前の少女を連れ出した。

本人曰く身寄りがないらしいため、ひとまずはイトの家で引き取ることになったの…だが。

「マジか…いつ居なくなったんだ?」

「えっと、今日の朝8時くらいにフロちゃんとシャワーを浴びたの。私は髪のお手入れに時間がかかるから、フロちゃんには先に出てもらって、その間はうちの弟に相手してもらうつもりだったんだけど…」

「…私がお風呂場から出たら、どこにもフロちゃんがいなくて。弟に聞いたら、”そもそもその子は風呂から出てきてないぞ”って…」

「うーん、中々難儀な話みたいだな…ん?」

一つ、疑問が浮かぶ。

「イト、お前さ。お前自身のシャワーはいつ終わったんだ?」

「え、なんで?んーとまー、9時前くらいかな?」

「それでフローギアスが居なかったから、急いで俺のとこに来たんだよな?」

「うん。どしたの?」

「俺とお前の家は隣だから、来ようと思えばすぐ来れる。朝の9時ごろにはここに来れたはずだろ。なのに、」

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「今は、もう夜だぞ?」

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「…あれ?え?ほんとだ、え?」

「だから……ん?そういえば俺、🌟寝しようとして🌟んだよな?…なあ。なんか🌟かしいぞ」

「🌟?な🌟これ、な🌟🌟🌟🌟」

「🌟🌟🌟🌟い🌟🌟🌟🌟な🌟🌟」

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「🌟🌟🌟🌟🌟🌟🌟🌟🌟🌟🌟🌟🌟🌟」

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”御機嫌よう。ここは私の世界。”

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私たちが一つの天体となって収束し始める。星々は別の星のことを観測しながら自身の核となる森を、生き物を、海を、必要十分な資源を召喚する。自身の面倒を見るのに精一杯な星もいれば、目くじらを立てて他の星のことを観測ばかりしている不埒な星も存在している。一際輝く星には”HappyEND”という烙印を押されたラベルがでかでかと貼られており、皆はそれを恨めしそうに眺めている。よく観察すると星々にはそれぞれラベルが貼られている。濁った血が凝結したような色の惑星には”BadEND”と貼られており、二度と日の目を浴びる事はない。神様に重しを乗せられたように宇宙の底に沈められていく。

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”お早う”

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「ん……あれ…?イトちゃんは…?」

『やっとおきたね』

「ひゃ!?だ、だれ……!?」

慌てて身を起こす。と、そこには…私と同じ顔をした、和装の少女がいた。

『わたしはわたしだよ。わたしの名前はフローギアス。あなたはわたし。わたしはあなた』

「…?あ、あれかな?わたしの”ドッペルゲンガー”の子かな?ガムくんからそんな話を聞いた事あるよ!」

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『そっか、そうだね』

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ばつん。

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あれ?

私の小指と薬指は?

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「う ゛ あっ……!な、な ん で」

指があった場所から赤色が噴き出す。

『うらやましいなー』

ニコニコの笑顔で、もう1人のわたしが言う。

『わたしは”100年後の”あなた。過去のわたしがとっても幸せそうな暮らしをしてたって知って、なんだかイヤな気分になっちゃってさ。あなたを攫いにきたの』

「な、なんで……?どういうこと?だって…わたし、なんだよね?自分を不幸にしたい…ってこと?」

『うーん?だって今のあなたは、私にとってはとうに過去のお話。あなたがどんな目にあおうが、どんなに不幸になろうが。』

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『今のわたしには、どうでもいいんだよね』

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もう一人のわたしの目が淡く光っている。

わたしは消し飛んだ左手の小指と薬指を抑えながら、質問を飛ばす。

「…ガムくんと、イトちゃんは、どうなるの」

『…?』

もう1人のわたしが首を傾げる。

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『だれそれ』

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「えっ」

『んー…どこかで聞いた事ある気がするなー。でももう、頭にモヤがかかってるみたいに思い出せないよ。ちょっとわかんないな』

「あなた、わたしじゃない」

『わたしだよ』

「違う!わたしじゃない!!わたしがガムくんとイトちゃんを、本物の”あい”を忘れるなんて有り得ない!違う、嘘だ、違う、あなたは誰!?」

ヒステリックを引き起こし、過呼吸になる。

もう分かった、違う、アレはわたしなんかじゃない。もっと何か別の存在なんだ。

『あのね。どう世界が狂っても、わたしはあなたなんだよ。時間はとっても怖いから、絶対に忘れたくないひとも、忘れたくない感情も、ぜーんぶ奪い去ってしまうんだよ。ね、”フローギアス”。』

ちょん、と喉をつつかれる。

喉から赤が吹き出す。

「 い ゛」

『ふふ。普通の幸せそうな子は夜の街に招待するんだけど…ほら、あなたは特別だからさ?別の場所に召喚してあげるよ。』

「っ あ゛」

喉が燃やされているように痛い。

『あ。そーだ。その”ガムクン”と”イトチャン”って子は、どんな子なの?幸せそうに暮らしてる?』

「……じあ゛わ せ そう に゛ ……」

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「……く゛らして ない゛。い つも゛ けんか ばかり゛ してて゛」

ごぼ。血の塊を吐き出す。

「え゛ がお なんて゛ みたこ゛と ない゛……」

『ふーん、そっか。じゃあどうでもいいや。』

そう言って、もう1人のわたしは背を向ける。

『じゃーね、ばいばい。”幸せなわたし”』

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ばつん。

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どさり、落下する。

「う゛ ……」

……ここは……

…”特別”って、そういうこと?

夜の街?に飛ばされるより、ここに飛ばした方が絶望するだろうって。

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「…わ゛たしの゛ いえ゛ だ」

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わたしのがらがらな声に反応して、部屋の中央に居座る巨体がのそりと動く。

「……おい」

”おとうさん”。

「今までどこ行ってやがったんだお前ぇ!!お前がいないから俺はロクに酒も呑めやしなかったんだ!!早く買ってこいよ!!」

……

「や゛だ」

「……あ?」

「だ って、おとう゛さんは わたし をあい゛してくれな かったも ん。……だか ら  もう゛ 、いら゛ない」

だん。おとうさんの拳で、テーブルが鳴き声を上げる。薄汚いテーブル。

「テメェ親に向かって

ざくっ

゛ 」

喉から盛大に血を吹き、おとうさんが崩れ落ちる。

病院から出た後、薄暗い森の中でたまたま落ちてた、刃の欠けた…少しバラの花が付いてたカッターナイフ。何の気もなしに持ってきちゃったけど、拾っておいてよかったな。

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……

テーブルの上に目を向ける。

そこには”睡眠導入剤”、”鎮痛剤”、”記憶🌟🌟剤”…など、いろんな薬が散乱している。

「……もう゛、いい゛よ ね」

じゃらじゃらと、薬を手元にかき集める。︎︎

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ガムくん、イトちゃん。わたしはやっぱり、生まれてきちゃダメだったみたい。

わたしはもう、…あきらめちゃうから。

わたしのぶんまで、幸せに生きてほしいな。

そう呟き、手元の薬を全て呑み込む。

頭にモヤがかかって、瞼が落ちて、意識が黒くなって、

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暗黒の空間を、ただひたすらに堕ちていく。

神様に重しをつけられたような感覚だった。

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ぱちん。

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(……?)

重しの感覚が消えた。…なんで?

”あなた、捨てられたのですか?”

頭の中に声が響いてくる。

(…そう、なのかな。ごめんね、もう何も覚えてないんだ。わたしはもうこの世界にはいらないってことだけは覚えてるけど。)

”…そうですか。良ければ、わたくしの元へ来ませんか?”

(…なんでもいいよ。あなたが誰なのかわからないけど……全部、どうでもいい)

”わかりました。それではこれより、あなたはわたくしの眷属となります。”

頭の中に凛とした声が響く。

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”付いてきてください、”青色”。あなたをきっと、幸せにしてみせます。”

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百年の時が過ぎた。

結局わたしは、幸せになんてなれやしなくて。

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「嫌な人を殺したら楽になった」っていう生前の感覚だけを信じて。

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夜の街で、幸せそうな子供を殺し続けている。

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