Tale:『I’m fine』

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脱出マップ「スカーケル」のネタバレが含まれています。

未プレイの方は閲覧非推奨です。


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「おい、これはどういう事なんだ!!」

父親から怒号が飛んでくる。予想はついていた。

「どこで育てかたを間違えたのかしら…」

母親が悲観する。こちらも…もう、見飽きた。

私の親は典型的な学歴人間だ。塾は3つ掛け持ちで行かされてるし、模試で5教科の合計が9割に達していなかった時なんてボロボロに怒られる。…「あなたのためよ」なんて言って、私の気持ちなんてまるでなんにも考えてない。

「ごめんなさい、パパ、ママ、ごめんなさい…!」

泣きそうになるのを抑えながら、私は必死に頭を下げる。

「そんなその場しのぎの語彙での謝罪なんて聞き入れるか!わかっていると思うが、コレを書くまで寝ては駄目だからな!!」

いつもの流れだ。悪い成績を取った時には、毎回「反省文」を書かされる。

悪い成績を取ってしまったことに対しての謝罪から、取ってしまった原因、それについての対策、エトセトラエトセトラ。

…もう、何回目になるんだろうか。

私は自分の部屋に戻り、真っ白の原稿用紙を見つめる。何から書こうか、謝罪の文章構成はどうしよう。

既に疲れているんだ、あまりそんな事は考えず—-いや、あまり構成を疎かにすると”やり直し”を食らってしまう。

「ぅぷ」

夜ご飯に食べた煮魚が喉まで逆流してくる。ただでさえ悪い点数を見せるストレスで、鉛のような味しか感じられなかったのに。

ぽたぽたと、真っ白な原稿用紙にシミができる。…いつの間に泣いてたんだろう。

どうやらいつか来ると思っていた限界が、ついに訪れてしまったらしい。

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………もう

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……………全部、どうにでもなれ。

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私は、勉強机の裏に巧妙に隠したリュックを取り出す。

鍵付きの机の引き出しもあるにはあるが、どうせ鍵は親管理なんだし、見られるに決まってるから。

リュックの中には1日分くらいの乾パンに、水ペットボトル2本、お金は…ほぼ無いけど。

リュックを背負い、シミの付いた原稿用紙に「限界でした」と書き散らし、窓から家の外に出た。

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しかし如何せん夜スタートな上に、怒られ通しだったのでかなり疲労が溜まっている。

意気込んで家出した矢先にすぐ寝るのはあれだったが、流石に睡眠は必要だ。

近くにある公園のトイレで、ひとまず眠ることにした。

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起きた。

現代人のくせにスマホなんて大層なものは持っていないので、太陽の位置で現在時刻を確認する。

「んー…朝の7時とかかな」

久しぶりにこんなに眠れた気がする。

それと同時に、今の自分の現状を見つめ直して。

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「はぁーー…………。」

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最大火力の溜息を付いた。

これからどうしようかな。

どこいこうかな。

……近くに高い建物とか、無いかな。

乾パンを口に放り込み、無味の水を飲みながら、当てもなくほっつき歩いていた。

歩いて、少し食べて、また歩いて。

夜が来て、近くの物陰で寝て、

. . . 家を出てから、1日と13時間が経過していた。

元々一日分しか用意していなかった乾パンをちびちび食べて食いつないでいたが、とうとうそれも底をついてしまった。

「…はぁ…」

「いっそ、このまま……」

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ばつん。

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空が、急に暗転した。

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「……え?」

最初は、目の錯覚かと思った。

私が疲れすぎているだけだろうと。

ぐにゃり。目の前の空間が裂けた。

「え…っ」

自分の目が正常か疑いたくなる。

今までにないハードな生活リズムで、視覚がついに壊れてしまったのかと。

…そうじゃなかった。

「はいはーい、子供みっけ。君は…って、あれー…?またかー。」

ひび割れた空間から、少女が顔を出す。

自分の知らない顔だ。

「…君、ぜんぜん幸せそうじゃないね。服はぼろぼろに汚れてるし、ちょっとやつれてるし、なんだかいや〜なオーラがにじみ出てるよ」

はあ、そうですか。

…なんで見知らぬ少女に突然格付けされたの。

「ふーん…そっかー、幸せじゃないならそれでいいや。人生頑張ってね、えっと…」

「…聞いてなかったや。名前はなんていうの?」

なんで失礼なこと言われた矢先に名乗らなければいけないんだろう。そう思ったが、今となってはもはや全てがどうでもいいため、素直に伝えることにした。

「…フィーネ。」

「そっかそっか、フィーネっていうんだね。うん、できれば覚えとくよ!

私ね、幸せそうな子供が嫌いなの。だから、もし幸せそうな子を見つけたら私に連絡してね!約束だよ!」

ぶつん。

少女はそう言い残し、こちらが何か言う前に裂けた暗黒空間へと帰っていった。…見つけたとしてどうやって連絡するんだ。

そして空間は何事もなかったかのように元に戻り、私も現実へと引き戻された気分になる。

「…はあ……私もついに、強めの幻覚をみるようになっちゃったか…もう、長くないのかな。」

そう、寂しそうに呟く。

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「そうそう!!」

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ぐにゃり。再び空間から少女が顔を出す。

「ひ…っ!」

「あー、ごめんごめん。あの道の先でさー、私の大切なペンダント落としちゃったんだよね。よければ探しといてくれないかな?」

「……」

…この子はどこまで傲慢なんだ。

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「それじゃ!」

ふりふり。手だけを空間から出して振り、引っ込めた後に再び空間が閉じた。

…そういえば、あの子が消えたにも関わらず、空は暗いままだ。…どういうことなのだろう。

「…もう、なんでもいいや。全部、どうでもいい」

そう言って、少女が指し示した道へと歩みを進め始める。そんな自分に、嫌気がさす。

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どうしてこうなった。

決まってる。俺が死ななかったからだ。

みんなあんなに仲が良かったのに、たったの3日で村が崩壊した。

3日だぞ、3日。

俺が信じていた村の絆は、そんなに薄っぺらいものだったのか?

「クソ…これからどうすっか…」

思考を巡らせるが、どうしても打開策が思いつかない。

他に行く当てもねえし。

俺がさっさと死んでおけばよかったんだろうが、ただの田舎の高校生に即断で自決するだけの勇気はなかった。

その結果がコレだ。

目を覆いたくなるような最悪な現実。

「神様…俺が何したってんだ?」

そう呟き、天を仰ぐ。

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暗転した。

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ぐにゃん。空間が、揺らぐ。

「っ、…なんだ…?」

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「よいしょ、っと!子供みっけ!

って…え?ああ、 」

急に目の前に少女が現れた。

…かと思えば、少女の口が突然消えた。

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「う゛、うん。ごめんね。改めてこんにちは!

君を……あれ。全然幸せそうじゃないね」

気づけば、少女の口は元に戻っていた。

「だ…誰なんだ、お前?突然現れて…」

「さあ?ただの女の子だよー。君こそ、名前はなんていうの?」

「名前、か。……ああ、もう手遅れか…。…俺はスカーケルってんだ。…お前は誰だ?」

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「そんなに気になる?しかたないなー。

私の名前は、”スカーケル”だよ!」

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「…あれ?」

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「……ふーん、そういうこと」

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ばつん。︎︎

少女の耳元の空間から、口が現れる。

浮いている口が、何かを呟く。

「うんうん、わかった。ありがとね。」

少女がそう言うと、宙に浮いた口が消失する。

そして、

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「わたしは、『フローギアス』だよ。」

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「…は?お前、なんで」

乗っ取られてないんだ?

俺の呪いの名前に。

「ふふーん、気になる?しかたないなー。」

少女はニコニコしながら言う。

「”1分前のわたしの口”を召喚したんだ。

きみと喋るとまずいんだろうなあってわかったから、きみと関わる前のわたしを呼び出した。それだけ」

「…自分を召喚?お前、さっきから何言ってんだ?話がぶっ飛びすぎててわけわかんねえよ…」

「私ね。”召喚”ができるんだ。

ここに来る時も、わざわざ10時間後の地球を召喚したんだよ?

わたし、けっこう夜が好きなんだよねー」

…ずっと理解が追いつかない。

こいつは何を言ってるんだ?

「ま、君がいま幸せじゃないならそれでいいよ。

…あー、そうだ。そこの家の床、空気を上書き召喚して穴を開けといたから。死にたくなったら飛び降りてもいいよ!じゃあねー!」

薄い青髪の少女はそう言い残し、空間の裂け目へと帰っていく。

…夢を見ていたような、それでいて嵐が過ぎ去った後のような、なんとも言えない感覚に陥っていた。

…穴を開けた、とか言ってたっけ。今更死ぬ気もあまり無いのだが、見るだけ見てみるか。

「…あ?」

なにやら。

穴の奥から、微かに声が聞こえた気がした。

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どうせ、行く所もないか。

こんな腐っている俺にでも、助けられる命があるのかもしれない。

俺は、勢いよく穴に飛び込む。

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「…良かったんですか?少女様」

「うん?なにがー?」

「彼らを出会わせるように誘導してましたよね。少女様が落としたペンダントなんてあちらの世界にある訳がないのに…彼ら、幸せになっちゃうかもしれませんよ?」

「ああー、そういうことね!ふふん、勘違いしないでよ。わたしは幸せそうな子供はだいっきらいだけど、元がぜーんぜん幸せじゃない子供はそこそこ幸せになってほしいなあ、って思ってるんだもん!」

「…そういうものでしょうか」

”竹輪ちゃん”が首を傾げる。

「では、彼がもしあの村で何事もなく幸せに暮らしていたらどうされたのですか?」

「それはー、聞かなくてもわかるんじゃない?」

少女は満面の笑みで答える。

スカーケル。君は不幸だったから、私に攫われずにすんだんだよ。

幸せそうな人間は、みーんな夜の街に攫って殺しちゃうからね。

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あはは、よかったね。

呪われててさ。

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