本作品はスピンオフ作品となっております。肩の力を抜いてお楽しみください。
+タグが付いている作品のネタバレも含まれております。未プレイの方は、閲覧の際ご注意ください。
︎︎
「れっ、レラーーーーー!!!!????」
ホスピス内に甲高い叫び声が響く。叫び声の主であるダイナの目線の先には、ベッドの上でうなされている、髪が赤く変色したレラララの姿があった。
額に手を当ててみれば、目玉焼きが焼けそうな熱さをしている。…なにこれ、人間ってこんなに体温が熱くなれるものなの!?
「おっ、オーダー、何これ!?早く治してよ、なんで髪が赤くなってるわけ!!?」
半泣きになりながらオーダーの服をぐいぐいと引っ張る。オーダーは困ったように「ちょっ、ダイナ、落ち着いてください」と必死になだめている。
「これは能力の過剰使用による、一種のオーバーヒート状態です。最近、レラは事ある毎に能力を使用していたので…目が負荷に耐えきれなかったのでしょう。」
「耐えきれなかった、って、レラはじゃあどうなるの!?まさか、はないわよね!?嫌よオーダー、お願い、早く治してってば!!」
「…私の能力は一般的な病気の治療が主です。ここまで特別なケースになると、治療の際レラにとてつもない激痛が絶え間なく走り…ショック死する方が先だと思います。」
「いや、だからって…っ、じゃあどうするの!?ただでさえ見るからにレラは危険な状態じゃない、この状態で放っておくわけにわっひゃあああああああああっっっ!!!???!!?」
全身に鳥肌を立たせながら、ダイナがうつぶせで倒れる。転んだ拍子に帽子が落ち、あわあわと拾い上げて深く被る。
そうして反射的に振り返れば、そこには手に氷を持った謎の水色の髪の少女が立っていた。
「へえー、やっぱり羽の付け根が弱いんだね?きみ、すっごい声出してたよ!あはは!」
目の前の少女は、無邪気にけらけらと笑う。ホスピスにこんな子供はいない。
「だ、誰…!?あなた、服の下に!!直で氷を入れたわね!!??」
「私?フローギアスだよ!黄色の同位体がこの世界にいるって聞いてさ、挨拶しに来たんだけどー…なんだか元気がなくってさー。」
「それでさ、ダイナフォビア。きみの人生をちらっと見てきたんだけど、きみ、全っ然幸せじゃないよね!私、不幸な子はつい手を貸したくなっちゃうんだー。『目星』に死なれても困るし…ね、ちょっと協力してあげるからさ。この子の体調を治す旅に出ない?」
突然得体の知れない少女…『フローギアス』から持ちかけられた取引に困惑する。不幸な子って…なにそれ。この子を信用するいわれはないし、そもそも何のリターンも無いのにわざわざ手を貸したりする?というか私の人生をちらっと見たって何よ、どういうこと!?新手の覗き魔!?何者なのこの子!?
…とは言っても、正直なところレラの体調を安全に治す手段は現状見当たらない。…何か方法があるのなら…この子に、賭けてみるしかないのかも。服の下に氷を入れてくるようないたずらっ子だけど。
「……その方法って、どんなの?」
「簡単だよ!君が『物語』に出てくる子達の血をいーっぱい吸うの!血の総量ってよりかは血の種類が大事だから、とにかくたーくさんの人から血を吸えば、特効薬になる血清がダイナフォビアの中で作れる…ん、だって!だから、れっつごー!」
「はっ!?根拠はどこ!?『物語』ってなに!?」
「いまミカさんから聞いた!細かいことはいーの!ほら、いってらっしゃーい!」
「ぎゃあーーーーーー!!!???!!?」
フローギアスが無造作に片手で空間をねじ切れば、ダイナをぶんっと裂けた空間に放り投げる。
絶叫マシンに乗っているようなダイナの叫び声は、裂け目に吸い込まれて消えていった。
──────────────────
どさり。誰かが落下してきた。
いつもなら誰かが世界に接続した旨の通知が来るはずなんだけど…まあいいか。どうせあいつが試してるんだろう。
「──────ようこそ、”プレイヤー”!君にはこれから、脱出ゲームをしてもらう!」
笑顔で高らかに言うが、一切の反応はない。…あれ。寡黙な人でももうちょっとリアクションあるんだけど。
「…どうしたのかな、プレイヤー?」
落ちてきたプレイヤーにとことこと近寄る。吸血鬼の格好をしたプレイヤーをつんつん、とつつく。
「…おーい?中身入ってる?まさか放置?」
めんどくさいなぁ、とぼやこうとして止める。
いつどこでアイツが聞いてるかわかんないから。
「…プレイヤーさーん。放置されても困るんだけどー……わひゃっ!?」
突然がし、と吸血鬼プレイヤーに腕を捕まれ、そのまま抱き寄せられる。見た目よりも数倍力が強く、ぎちぎちと自身の骨が鳴っている。
「い゛っ、いだだ、ちょ、ちょっとプレイヤー!話してっていうか、起きてるなら返事してよっ…」
そこまで言って気がつく。密着しているからこそ気付いた事だが、このプレイヤーは寝息を立てている。…まさか、寝ぼけて私の事を抱き枕にしてるのってかいたいいたいいたいいたい、い゛たい゛!!
「ぷっ、プレイヤーっ…!!私の事が大好きなのはわかったから、そろそろ離れてくれないか!!背骨から鳴っちゃいけない音鳴ってるからぁっ!!!」
「……んぅ……?」
耳元で叫ばれた吸血鬼はようやく腕を緩め、眠気眼で目を擦る。…罰と関係ない所で死ぬとこだった。
「…ッはぁ、はぁっ……!!あのさぁ、げほ、プレイヤー…というか、君。何者なの?寝てるプレイヤーなんて見た事ないし、そもそもここ来る時の通知音も鳴らなかったし…裏口入学?」
それを聞くと、くあ、と大きな欠伸をした吸血鬼は、マイペースに話しかけてくる。というか歯でっか。鋭っ。
「…あ!おはよう、えへへ、なんだか気絶しちゃってたみたいで…へへ。ごめんごめん、私ダイナっていうの。君は?」
「…私は、赤原笑蘭。…なに?君プレイヤーじゃないの?ほんとに何者?」
…あの青髪の少女は、『物語』の人々の血を吸ってこいと言っていた。この子がそうなのだろうか?
…それならば。
「えと…私、吸血鬼なんだ。謎の子にここに連れてこられたんだけど…たぶん物語の子って君のことだよね。ねえ、ちょっと君の血、吸わせてくれないかな?」
「………あー……….」
途端、笑蘭は表情を曇らせる。”そういうことか”とか呟いているのが聞こえる。
「…どうしたの?笑蘭ちゃん。何かマズい?」
「…いや。ホラ、吸いなよ。早いとこ。」
何かを諦めたように腕を差し出す。
少し投げやりな態度は引っかかるけれど、素直に吸わせてくれるに越したことはない。かぷ、と腕に噛みつき、笑蘭の血を吸い始める。
「…はんは、ひみのひ、おいひーね?」
そう言いながらちゅるちゅると血を吸っていく。一定量まで吸えば、ぷは、と腕から口を離す。
「いやー、おいしかった!笑蘭ちゃんありがとねー、これで特効薬の作成もすす…む……?」
目の前の笑蘭は困惑した顔でダイナを見つめている。
「…え、もう終わり?私まだ死んでないよ…?」
……?
「え?そりゃ、死ぬまで吸うわけないじゃん…?君の血がある程度採取できればそれでいいわけだし…え、なに、笑蘭ちゃんって死にたいわけ?そんなのダメよ!多感な時期かもしんないけどさ、生きてれば人生良いことあるだろうし…」
わたわたとフォローするような言葉でまくし立てれば、笑蘭の表情はさらに困惑の色を深める。
「…え?罰で私の事を殺しに来たわけじゃないの?プレイヤーと親身に触れ合っちゃったから、みたいな…そんな理由で、血を吸い切りにきたんじゃなくて?」
「んんー……?罰?えっとー…ごめん、君が何を言ってるかよくわかんないんだけど……まあ、私はやる事やったし、もうそろそろ次に行くね?命は大切にしなきゃダメよ!」
そんなダイナの言葉を聞いて、「ええ…」と笑蘭は呟く。それでも敵意が無いことは伝わったのか、「あー…じゃあ、気をつけて。」と手を振っている。ダイナもばいばいと笑顔で手を振り返し、次の世界へと赴いていった。
──────────────────
「わひゃっ!?」
どさっと洞窟のような場所に着地する。種族的には吸血鬼なので申し訳程度の羽は生えているが、飛べないので基本的に意味が無い。何のために生えてるんだろう。服着る時に邪魔だしむしりたい。
「…!エデン、あそこ!誰かいるわ!」
「本当だ。…誰だろう?大丈夫ですか?」
2人分の声が響く。声のかかった方を見やれば、そこにはピンクと金髪の2人組の子供がいた。
「んん……ここは……?」
「えと、ここは…僕たちもよく分かってませんが、とにかく洞窟の中です。あ、僕はエデンで、こっちはローレライ。お姉さんはなぜここにやってきたんですか…?」
「えっと、私はダイナ。…ねえ、出会った直後で悪いんだけど、さ…君たちの血、ちょーっとだけ貰ってもいいかな?なーんて……」
「ち、血ですって…?」
『血』という物騒な単語に明らかに怯えているような雰囲気を見せ、ローレライがエデンの後ろに隠れる。そりゃそうだよね…。
「えっと、ねー…信じて貰えないかもだけど、私吸血鬼なの。ほら、犬歯が明らかに人間じゃないでしょ?」
そう言いながら、んあ、と口を大きく開ければ、人間離れした形状の尖った歯を見せる。吸血鬼の特徴の一つだ。羽を見せればもっと簡単なのだが…肌に直で生えている都合上、ここで半裸になってまで証明するのは流石に正気ではない。歯でなんとか納得してもらうことにした。
「…なるほど。つまり、食事がしたいんですね。血を吸われて、僕らは死んだりしないんですか?」
「んー、まあ大体そういうことよ。がぶがぶーって噛んで、血を貰いたいの。安心して、よっぽど大量に飲まなきゃ人は死んだりしないし、噛むのに関してはプロフェッショナルよ。絶対痛くなんてしないから…」
「ダメっ!!!!」
ガシ、とローレライがエデンの腕を掴む。
「あなたは悪い人って感じはしないし、できる限り協力はしたいわ。…でも…でも、エデンに噛み跡を付けるなんて……っ!!」
私だって付けたことないのに…と、ローレライが小声で付け足す。
(うわぁ〜…そういう関係かぁ……うっわ〜噛みづらぁ〜…いやでも噛まなきゃレラが良くならないし…うぅん……)
ダイナは両頬を手で覆い、困り顔を見せる。しかし、噛まない限り事が進まないのだ。これもレラの為だと自分に言い聞かせる。
「え、ええっと…別にえっちなとこには付けないのよ?腕とかでいいし…」
「腕もダメ!!!」
ダメなことある?
「えぇ〜〜…じゃあ、どうやって飲めっていうのよ!私の友達が今大変なの!!あなた達の協力が必要なの!!!」
「…ええー…そもそも、どこであれエデンの事をあんまり噛んで欲しくないのだけれど…んんー…まああなた、ほんとに困ってそうだし…じゃあ、コレを使うならいいわよ」
と、ローレライは服の内ポケットからごそごそと取り出し、ダイナに渡す。…注射器?
「それで私たちの血を採血しなさい。そうすれば跡もつかないし、あんたは血を飲める。それでいいでしょう?」
「…えっとー…血は鮮度が命って知ってるかしら?魚とかの鮮度とはモノが違うのよ、1秒単位で味が損なわれていくの…注射器に血を丁寧に移しなんてしたら、味がその、すんっごいことに──────」
「でも飲めるんでしょう?それが私の最大の譲歩点よ。腹、括ってちょうだい」
…渋々といった形で、ダイナは注射器で2人の血を採血する。注射器から血を垂らし、上を向いて舌で受け止める。鮮度が損なわれた血を口に含めば、口の中で地獄のハーモニーが広がる。例えるならそう、泥水と吐瀉物を混ぜたような嫌がらせみたいな味。お゛え。
「うぷ……っ」
途端、吐き気が込み上げる。しかし、ここで吐き戻してしまえば彼らの血液ごと戻してしまうことになるため、涙目になりながら必死で喉奥に流し込む。
なんとか無事(?)に血を飲み込む。ダイナが最悪な後味に顔をしかめていれば、「次!」と言わんばかりに空間ががぱっとねじれる。どうやらインターバルは無いらしい。地獄か。
「ふ、2人とも、ありがとう…じゃあ、私、次のとこ行ってくるから……」
「あっ…き、気をつけてくださいね…」
少年の激励を背に受けながら、1人の吸血鬼はふらふらと次の戦地に赴いた。
──────────────────
「ぎゃああああああああーーーー何何何何まってまってまって来ないで来ないでこないでとまってええええ゛ーー!!!!!!!!」
ズダダダダダ、と爆速で迫ってくる謎の生物に追いかけられ、ダイナは泣き叫びながら逃げ回っている。
「なにぃっ!?私なにも悪いことしてないですっ、食べても美味しくないからあっ、ゆるしてええっ!!!!!」
出せる限りの全力で駆け回るが、ダイナの足よりも化け物の足は遥かに速く、とてつもない勢いで後ろから迫ってくる。たすけ、誰かたすけて。
「そこのあなた!こっちよー!」
ふと、脇道から声が掛けられる。ダイナはその声を聞きつけ、咄嗟にその方向に転がり込む。1秒前までダイナがいた場所を怪物が駆け抜け、そのままズダダダと過ぎ去ってしまった。
「大丈夫かいな嬢ちゃん、どっから迷い込んで来たん?」
「あなた、大丈夫だったかしら?…まあ!よく見るとお洒落な格好をしているのね!」
改めて見れば、そこには金髪の男の人と小柄な女の子がこちらを見下ろしていた。脇目も振らずに飛び込んだためかなり間抜けな格好をしており、すぐに顔を赤らめながら体制を正す。
「っあー、えと…助かったわ。私はダイナ。ここはどこ?あなた達は一体何者なの?」
「俺はリバ。ここに関しては、あー、俺らもようわかってへんのやけど…とりあえずお化けの出る遊園地、やな。ヒョコヒョコ動き回っとると危ないから、あんまこっから動かん方がええで」
「私はメルピナよ!よろしくお願いするわ!」
2人はフレンドリーに話してくれる。なんだか良い人たちそうだし、すんなり事が進むかも。
「リバさんにメルピナちゃんね。私ー…実は吸血鬼なのだけれど。もしよかったら、あなた達の血を少し分けてくれないかしら?痛くしないことは約束するわ!」
そんな言葉を聞いたメルピナは唐突にがし、とダイナの腕を掴み、キラキラした目でずいずいと押し迫ってくる。
「まあ!!あなたは吸血鬼なのね!実際に見るのは初めてよ、あなたに会えてとっても嬉しいわ!羽はあるのかしら?十字架はやっぱりお嫌いなの?もっとあなたの身体を見せて頂戴!」
と言い、ベタベタと身体をまさぐられる。
「……な、なんか飲み込み早くない?私が言うのもなんだけど…吸血鬼なんて、そう簡単に受け入れられる事じゃないはずなのに…」
「あー…メルピナの嬢ちゃんはちょいと箱入り娘なとこあってな、なんでもすぐ信じてまうんよ…ほんまにええ子なんやけど、将来詐欺やらにすぐ引っかかりそうで心配や」とリバが横から付け加える。
「まあ!好奇心と不用心は違うのよ!そうだ、血が欲しいんだったかしら?…それなら申し訳ないのだけれど、私の血は無理なのよ。血を吸われるのが嫌とかじゃあなくて、不可能なの。リバから吸ってあげて頂戴?」
「…え、無理?不可能だとか、そんな事…今まで吸えなかった人はいないけど…」
まあ吸ってみて、と言わんばかりにメルピナが腕を差し出す。ダイナは服をあげてメルピナの肌に噛みつき、
がきん、
という、妙な感触がする。
「え」
目を丸くしたダイナはゆっくりと歯を離し、捲った袖をそろそろと戻す。
「……メルピナちゃん、って」
次の言葉を遮るように、メルピナはダイナの唇に自身の人差し指を押し当てる。少し寂しそうな瞳でダイナに向かって微笑みかけ、静かに囁く。
「そういうコトなのよ。このこと、まだ彼には言えていないの。…申し訳ないのだけれど、まだ、秘密にしていて貰えないかしら。」
「…… ……」
リバは「おーい、どうしたん?」と、片手を振りながら聞いてきている。彼にメルピナちゃんの秘密を悟られるわけにはいかない。
「あー…この子、たまたま吸えないような珍しい血液型だったの。申し訳ないのだけれど、リバさんの血だけ吸わせてもらえないかしら?」
「勿論ええで!うっかり吸いすぎて俺んこと殺さんようにしてや〜?」
そんな軽口を叩きながら、リバはずいずいと自身の腕を捲る。…良い人たちだな、本当に。
下からすくい上げるように両手で腕を掴み、かぷ、と肌をなるべく傷つけないように腕に噛み付く。血をずるずると吸い上げれば、特に何事もなくぷは、と飲み終えることが出来た。
「…うーん…なんだか変な味かも。リバさんって何か、普段から薬とか飲んでたりする?」
「あー…薬は飲んでへんけど、俺変な体質なんよなー。それの影響かもしれへんな。」
「へ〜。」
少し詳細は気になったけど…まあ、無下に踏み込むものでもないだろう。あまり深くは追求しない事にした。
そんな話をしていれば、ぐにゃりと空間がねじれて新たな場所へのゲートが開通する。そろそろ行かなきゃ。
「とにかく、本当にありがと!また今度会えたらお礼させて!」
「ええ、私もあなたに会えて嬉しかったわ!」
ふりふりと手を振り、様々な次元を旅する吸血鬼は次の空間へと赴くことになる。
──────────────────
死んだ目をしたダイナが、虚無を見つめるように相手の方を見ている。
身体はぎちぎちと鎖でキツく縛られており、相手は綱引きをするように鎖を引っ張って呪縛の強度を保っている。たすけて。
「オイ!!お主が今日入ってきたゴミじゃな!ココに落ちてきたヒト型のゴミは変な事する輩が多いからの、とっととお主の企みを吐かんか!!」
ぎちぎちぎち。この世界に落ちてきて間もなくこの謎の鎖少女に縛り付けられており、割とどうする事もできない状況に陥っている。てか吐かせるなら喋らせろや。口に鎖を噛まされているせいでもがもがと呻くことしかできない。
「オイお前何してんだ…見たとこ害は無さそうだぞ、俺人の敵意とか敏感だからわかンだよ」
と、少女の後ろから声がかかる。赤髪ピアスバチバチの不良少年っぽい子。少年のそんな声を聞けば、「む、そうか…」と少女は鎖をゆるゆると解き、ぷは、とようやく喋れるようになる。どこのどなたか存じ上げませんが助かりました。ありがとうございます。
「ねえ、ここは一体どこなの?あなたは?いきなり私の事縛り上げてさぁ…初対面の人に対して失礼よ!シ・ツ・レ・イ!」
「ん、お主は本当に何も知らんのか。ここはゴミ箱じゃ、ウシロが産んだ失敗作が捨てられる場所。お主もそのゴミのうちの一つだと思ってたんじゃが…どうやら違うようじゃな。」
「?ウシロ?よくわかんないけど…私はゴミなんかじゃないわ、由緒正しき吸血鬼の末裔よ!」
「………ほー。お主……」
くい、とダイナの顎を引き、顔を近づける。目と目が至近距離で合っている。
「『成功体』か」
まるで面白いものを見たと言わんばかりに少女は微笑む。優しい笑顔というよりは、悪戯っぽい笑み。
「そりゃあゴミでは無かろうな、悪かったわい。ほれ、ココはお主の居る場所ではないぞ、早う帰らんか」と、しっしっと追い払うように少女は言う。
「え?い、いや待ってよ、勝手に自己完結しないで!私まだあんたの名前も知らないんだから…というか、まだ帰る訳にはいかないんだから!!」
「ああ?ワシの名前なんぞどうでもいいじゃろ。あ゛〜……ワシはカテナじゃ。このゴミ箱、”電柱”を管理しておる。あとコイツは…」
「ジライだ。こいつからはバクダンって呼ばれてる。ワケあってカテナの手伝いしてンだ、不服だけどな。俺はちゃんと人間だから、あんまそう警戒すンなよ。」
はい?じゃあこっちの少女は人間ではないんですか?
「お前がなんでココに落ちてきたかわかンねーけど…面白いトコじゃねェし、とっとと帰った方がいいぜ。帰るアテはあンのか?」
「あ、あー…帰るアテはあるんだけど、そのー…」
この人達に頼むのは、ちょっと怖いけど。
「…血を吸わせて貰えないかしら?私、さっきもサラッと行ったけど実は吸血鬼で…みんなの血を集めてるの。痛くしないから、いいかしら?」
ダイナがそう言うと、カテナとジライの2人は顔を見合わせる。
「俺は別にいーけど…お前って血ィ入ってんのか?」
「わからん。あまり血が出るような怪我をした事がないからの…人間に近いように作られとるから、多分流れとるんじゃないか?」
あやっぱり人間では無いんですね?
「まあ、いいじゃろ。ワシの血を飲んで腹ァ下しても責任は取らんからな?」
「わ、わかったわ……」
背に腹はかえられない。純粋な人間であるジライの血は一旦後回しにして、カテナから吸うことにした。ケーキのイチゴは最後に取っておくタイプだからね。
カテナの腕を拝借し、血を吸い始める。…思ったより普通の味だ。あと、思ったより健康的な味がする。正直なところあまり味に期待はしていなかったが、普通に美味しい。ちゅるちゅると飲み続ける。
「…お、おい、いつまで飲むつもりなんじゃ?」
少し困惑した様子のカテナに上から声をかけられる。やばい、美味しくて少し飲みすぎてしまった。急いで噛んでいる歯を腕から離す。
「あ、ごっ、ごめん!なんだかあなたの血、想像より美味しくって…ちょっと飲みすぎちゃったわ。ごめんね?」
「たく…」と腕を組みながらも、「血が美味しい」と言われたことが嬉しかったのか、満更でもない様子で自身の腕を眺めている。
「じゃあ次は俺か」
と言って素直に腕を差し出してくれる。うう、ココ最近はすんなり吸わせてくれる人が多くて涙が出そう。
かぷ。
「苦ッッッッッが!!!!!!!!!!」
思わず反射的に歯を離し、腕から顔を離す。え?待ってありえないんだけど、この年齢の人間の血がこんなに苦いことある?
だひゃひゃひゃ、苦いと言われとるわ、流石はバクダンじゃ、と隣でカテナが大爆笑している。一度全人類に飲んでみてほしい。ほんとに苦すぎる。いやほんと、ゴーヤとか、ピーマンとか、そういう苦さのレベルじゃない程に苦いから。
「ええ…俺そんな不味いのか…?」
「ごめんジライくん、擁護のしようが無いくらいまずい。タバコとか吸ってる?」
「あー、吸ってるなァ…いや別に血が不味いからってどうと言うことは無いけどさ、そうか……」
どうやら割と悲しかったようで、ジライが露骨に落ち込んでいれば、カテナが上機嫌にバシバシと背中を叩く。
「まァーバクダン、そういう事もあるわい、日頃の不摂生が祟ったんじゃな!!だぁーから言ったじゃろうが、タバコは体に悪いからやめんかって!」
「おめーも不健康とは程遠い肌色してるだろ」
「ンじゃと??!!この肌は生まれつきじゃ、文句があるならウシロに言ってこい!!そもそもうんぬんかんぬんへべれけ」
ギャーギャーと喧嘩し始めた2人を遠い目で見つめていれば、ぐぱと空間が開く。「あっ、じゃあ、ありがとうございました〜…」と小声でそそくさと逃げるように、ダイナは次の空間へと赴いた。
──────────────────
「がぼっ、が、ぼぼぼぼぼぼ…ッ!!!」
おかしいとは思ったんだ。
転送先に床がなかったから。
次の空間に転送された傍から、ばっしゃあああんとどでかい水飛沫を上げながら水の中へと放り込まれる。何がまずいかって、私泳げない。吸血鬼はみんなこぞってカナヅチなのだ。
「待ちーや!!そこのあんた、大丈夫なん!?」
「大丈夫ですか?ひとまず捕まってください!」
2人分の声がどこかから聞こえる。途端、がし、と腕を誰かに捕まれ、ざばざばと身体が引き上げられる。
ばしゃ、と陸に上がり、肺に入った水をゴホゴホと吐き出す。肩を上下に浅く揺らしながら息を整え、次いで辺りを見回す。
そこには、街がそのまま海底に沈んだような光景が広がっていた。
また、茶色の服を着た大人しそうな青年と、紺色の髪をした巫女服の女性が心配そうにこちらを見つめている。なんだか2人とも大人な雰囲気だ。
「た、助けてくれてありがとう、ございます…えと、私ダイナっていいます。あなた達は誰なんですか?ここは一体…?」
「ウチは神乎 海露っちゅーもんやで!そんでこっちは琥珀くん!ここに関しては、ウチらも巻き込まれた被害者やからよー分かってないねんけどー…ダイナちゃんこそ、なんでここにおるん?」
「あー、えと、話せば長くなるんですけど…私、吸血鬼なんです。それで血を貰うために色んな世界を旅してて…初対面で失礼なんですけど、もしよければ血を頂けませんか?なんて…」
「…吸血鬼?そんなの空想上の生き物じゃないんですか…?」
「そーんな事言うたら、今ウチらが巻き込まれとる状況だって似たようなモンやろー?ウチはオカルトチックな事大好きやから、ダイナちゃんの事は信じるで!吸血鬼格好よくてええやん!」
と、巫女服のお姉さんはニコニコと上機嫌に話してくれる。好きです。
「あ、そういやあんたさっき溺れよったけど…もしかしてカナヅチなん?」
う。
「…まあ、そうですねー…吸血鬼ってみーんなカナヅチなんですよ。ニンニクとかは別に大丈夫なんですけどねー、十字架とかトマトとかの話は、あれ全部人間が勝手に妄想を広げた眉唾話なんですよ〜」
「へえ!奇遇やね、実はウチもあんまし泳げんでな、琥珀くんに頼りきりなんよ。ダイナちゃん、よかったら一緒に泳ぎの特訓せえへん?」
「えっ?」
「琥珀くんの指導の元、泳ぎの特訓!琥珀くんは教えるの上手そうやからな、うちらすぐ上達するで!」
「あの、いや、あの」
「不安なん?だーいじょうぶやって、琥珀くんは泳ぎのプロフェッショナル(他称)やからな!危なくなったらさっきみたく助けてくれるやろうし、安全面は心配いらへんで!頑張ろうや!」
「いや私、人間じゃなくて、種族的に結構むりで」
「だーいじょうぶやって!その服やと泳ぎづらいやろうし、ダイナちゃんのぶんの水着もちゃんとある(錬成)(本当にどこから生み出したかわからない)(サービスカット)さかい、練習に付き合ってや!血ーはその後にたらふく飲ませたる!」
「いやその水着どこから持ってきたんですか、なんで2人分の水着あるんですか、え私初対面の男の人の前で水着になるんですか、というか泳げなくて良いっていうか泳ぎたくないっていうか、あの、」
必死に弁明するが、「ほな行くでー」と海露さんは聞かない。琥珀さんの方に助けを求めるように視線を移せば、「止めるのも面倒なので諦めてください」という諦観した目でこの光景を見られる。そんな…。
「ダイナちゃーん、乙女の更衣室はこっちやでー♡琥珀くんはあっち向いててな、いくら可愛い女の子の生着替えを覗くチャンスやからって…覗きに来たら承知せーへんからな!」
「はい」
ドライな返事と共に琥珀さんは別部屋へと避難する。最早逃げ場を失った私は、「これもレラララのため…」と無理やり自分に言い聞かせ、泳ぎの特訓に付き合わされることになる。
──────
…
「いやーありがとうな、ダイナちゃん!お陰でちょっとは泳げるようになったわ!」
「ちょっと(犬かき/補助が無くなった途端に静かに沈んでいく)ですけどね」
2人の小競り合いを死んだ魚のような目でぐったりと横たわりながら見ている。途中3回くらい三途の川が見えた気がする。
「……っあ゛、あの……血を……しぬ……」
レラのためというのもそうだが、生物として栄養補給をするために真面目に血を飲まなきゃいけないくらい今の自分は憔悴している。人間苦手なものにずっと触れているとこうなるのか。ショック療法ってあんまり心身によくないんだなと悟りました。
「あああ、ほんまごめんなダイナちゃん、ほら血やで!どこ噛ませたらええかわからんけど…好きなだけ吸いや!」
と、ぎゅっと目を瞑りながら顔を差し出す。気持ちは嬉しいんだけど頭だけはアカンです。頭の血を吸ったらあなた脳出血で数分で死にますよ。
…という声を出すのも憚られるくらい身体が疲労困憊だったため、無言できゅ、と海露さんの腕を手繰り寄せてちるちる吸う。いつもより少し多めに吸えば、辛うじて立てるくらいには回復した。
「…良ければ僕のも吸ってください」
と、どこか憐れむような労るような声で琥珀さんも腕を差し出してくる。好きです。正直本当に助かります。
琥珀さんの血も吸っていれば、徐々に身体は回復していく。血さえあればすぐに元気になる吸血鬼としての血筋に今だけは感謝しながら…感謝?そもそも吸血鬼の血筋がなければ水が苦手にもならなかったはずだけど…まあ、とにかく、感謝してやる。
「あ、ありがとうございました〜…。」
ともあれ心身共に疲れた。へろへろとお礼を言いながら、ダイナはゲートを潜ることになる。
────────────
その後もダイナは色んな世界を旅した。ある世界では金と銀のメッシュの女の子二人組と共にプリクラを撮ったり、紫色の女の人と編み物をしたり、雪山で緑のマフラーの女の子と暖を撮ったり(羽根が凍りついて大変だった)、めちゃくちゃうるさい頭部がハテナの人と会ったり…色んな世界を旅して、色んな人の血を吸わせてもらった。
そして。
「……はぁー、はぁー……十分、かしら……?」
「うん!十分だね!これだけ揃えば血清が作れるよ!」
青色の女の子…フローギアスはそう言うと、首から提げたペンダントを手に持ち、もう片方の空いた手で「えい」と虚空を握るようなポーズを取る。
途端、ペンダントとダイナの腹部が共鳴するように光りだし、1つの小さなカプセル錠のようなものが生み出された。
「運命を原料に、特効薬の召喚が完了したよ!これを飲めばたちまち治っちゃう!よかったね、もう1人の黄色!」
レラララの背中をぱしぱし軽く叩きながら、薬を手渡す。レラララは朧気な目で薬を飲み、少し待っていれば…顔に生気が戻り、髪の毛の色も元の綺麗な黄色へと変わる。
「…あ…す、すごく楽になった…!凄い、ありがとう、ダイナにフローギアスさん…!」
「うんうん!黄色が元気になってよかったよ!」
「……よかった、ほんと……」
フローギアスとは対照的にフラフラと覚束無い足取りで見守っていたダイナは、よろりとレラララのベッドの上…レラの伸ばした足の上に倒れ込む。
「わっ!?だ、ダイナ、大丈夫!?」
「その子、すっごく頑張ってたからね〜。目が回復したら、ダイナフォビアの今日の頑張りを覗いてみて!きっと驚くよ!」
「じゃ、元気になったし、私はそろそろ帰るねー。ばいばーい!能力はきちんと節度を保って使わなきゃだめだよー!」
フローギアスはそう言ってふりふりと手を振り、ゲートを開いて去っていってしまった。
レラララは、少し申し訳なさそうな笑顔で、優しくダイナの頭を撫で…そっと抱き締める。
ホスピスを騒がせた大騒動は、1人の吸血鬼の決死の世界間旅行によって、無事に幕を降ろしたのであった。



コメント