Tale『失楽園』

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このTaleには、脱出マップ『MythTake』のLorelaiENDのネタバレが含まれています。

未プレイの方は閲覧非推奨です。

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「…ねぇ、立ち入り禁止だよ?入っていいの?」

「じゃあ、座りながら入る?全く…入っちゃいけないから、立ち入り禁止なんでしょ」

そう言って、ローレライは立ち入り禁止エリアに入る。

「…ここに何しにきたんだっけ?」

「はぁ?エデンあなた、ここまで来て目的を忘れたわけ?なんのためにこんなトコに来てると思ってるのよ」

「…いや……」

「…大丈夫よ。きっと、上手くいくから。」

そう言って、ザクザクと山の中を進む。

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「エデン。これが終わったら、久々にたこ焼きでも食べにいかない?」

「………」

「近所にたこ焼き屋さんがあるじゃない。長いこと行ってなかったから、食べたくなってきちゃって」

「…………」

「ね、エデン。いいでしょ?」

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そう言って振り向く。彼はどこにもいない。

馬鹿じゃないの。私。

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あれから数日。エデンが消えた世界で、私はずっと途方に暮れていた。

何もしたいことがない。やりたいことがない。別のことで気を紛らわそうとしても、すぐに現実が私を襲ってくる。

なんで、なんで、なんで。

なんで、なんで私たちがこんな目に遭わなくちゃならないの?

エデンが虐げられて。原因を消したら、今度はエデンが死んじゃって。今じゃ私1人。14歳。これから色々楽しいことがある時期だよ。私はこれからどうすればいいの?エデンが進む道についていってたんだよ、私。どこまでも行けるって信じてたのに、道が急に途切れたんだ。道。今までどんな道を歩んできたんだっけ。エデン。聞いて、教えてよ、エデン。私どうすればいい?

「…私も、ずっと好きだった」

力なく呟く。遅い。もう遅いよ。伝えるべき相手はもう居ない。あの時、わたしも伝えておけばよかった。永遠に大好きだ、ずっと愛してるって。もっと言いたいことを言えばよかった。

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ちゃり、とポケットから音がする。

なに?…なにか入れてたっけ。

ポケットを漁る。紫色に光る宝石が出てきた。

「………たからもの発見機?」

あの世界で、”たからもの”を見つけるために使った機械だ。

あれだけ”たからもの”の場所を指示してきたのに、今は何をしても反応が無い。

「エデンは」

叫んでいた。

「エデンはどこ!?私にとっての”たからもの”は、もうエデンしかいないの!”たからもの”の場所を教えてくれるんでしょ!?教えてよ!!」

紫色の宝石はピクリとも反応しない。

「…ッ、ねえ!あれだけ私たちに何度も何度も指示してきたじゃない!!見つけてよ!わたしのたからもの!!探して、探してよ、エデンを!!ねえ、探せ、……探せよ!!!!」

泣き叫びながら、たからもの発見機を地面に叩きつける。紫色の欠片は数回跳ねた後、地面の上へと転がる。何も反応はない。

私は、私たちは負けたんだ。理不尽で不条理な世界に。どうしようもなく悔しかった。誰かに後ろ指を指されて笑われている気がした。もういいよ、笑って、笑ってくれ。私は誰も助けられやしないんだ。そのまま殺してくれ。こんな世界からどこか遠くへ連れ去ってくれ。頼むから。

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ざぐん。

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「ぅ」

鋭い激痛。. . . 胸の辺りから 刃物が突き出ている。

「……あ゛」

げほ、ごぼ。肺に血が流れ込む。息が苦しい。

「……あ゛ぁ…やっと時間切れ?いたのね、あんた」

「いたよ」

首にペンダントをかけた白いフードの男が、ローレライの胸を貫いている。

ローレライは静かに自身の胸を見下ろす。

「…はぁ。結局、人生で一度も育たなかったのよね、私の胸。」

「知らねえよ」

つまらなさそうに男はぼやく。

「ねえ。私、どうすればよかったの?」

「それも知らねえよ。でもまあ少なくとも、青い箱なんかに手を出すべきじゃなかった。純正の白い箱を探すべきだったんだって、権能も何も持っちゃいないお前は」

「…青い箱の代償。それがあんた。使った人間に時間制限付きの願いを与える。そうだったわよね?」

「合ってるよ。

俺の仕事のほんの一部だけどな、それは」

はは、と男は漏らし、刃物をずるりと引く。

ローレライから大量の血が噴き出る。

「げっ、ぼ……っ、ぅ、うあ゛…….」

「そういやあの男…エデンはお前の箱うんぬんの説明を聞いてる時、既に「青」が知覚できなくなってたみたいでさ。『白い箱』って聞こえてたみたいだったな、皮肉な事に。」

もう、息ができない。

男の話をなんとか耳に入れるので精一杯。

「言っとくけどお前、死ねないからな」

男は見下ろしながら呟く。

「お前の青い箱に願ったネガイは『エデンに会うこと』。代償は『二度とエデンに会えないこと』。お前は『エデン』という存在が風化し、世界から忘れられて消えゆくまで、死ぬ事ができない。例え死んでも気がつくとこの世界にいることだろうさ。お前はもう世界に縛られてるんだ。世界中の誰もがエデンのことを完全に忘れるまで、お前は縛られ続ける。なあおい、解るか?世界の誰よりもエデンのことを愛してる少女にこう言ってんだ、俺は。”お前がエデンのことを完全に忘れない限り、お前が解放されることは無い”ってな。」

「………そう。ごぼ、長ったらしい、説明、ありがとう、…クソ野郎。」

「どうも。君がこの世界から解放されることを心から願ってるよ。」

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そう言って、男はパチン、と指を鳴らす。

ざくざくざく。大量の刃物がローレライに降り注ぐ。

「ご っ、ぱ…….ッ」

「……そ゛れ じゃ あ。刺す゛ 必要 …とか あ゛った かし ら ?」

「あ?はは、やだなあ。」

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「そっちの方が面白いじゃないか」

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ざくん。

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目が覚める。

気がつくと、自宅の前に倒れ込んでいた。

あれだけザクザク刺されたのに、体には全く傷が付いていない。…というより、「体が新しくなった」という感覚の方が適しているだろうか。

「…エデン。大丈夫。もし世界中の誰もがあなたのことを忘れても、私だけは、絶対にあなたのことを忘れないから。」

そう呟き、自宅のドアを開ける。

ぽとり、とドアの上から何かが落ちてくる。

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「(…画鋲(がびょう)?)」

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「は」

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どざざざざざざ。

あまりにも多くの量の画鋲が、雪崩のように家の奥から押し寄せてくる。

「いった……!!」

間一髪で画鋲の山に巻き込まれることは回避したが、何本か手足に刺さってしまった。

「な、何よこれ…!?というか、パパとママは…!?」

そう口にして気づく。人の気配がしない。自分の家だけじゃない。この街全体から、人の気配が、全く。

「(……夢?)」

そう思った束の間、空から「バババババ」という音が聞こえてくる。一体なんの…

「……嘘でしょ」

飛行機がこちらに接近している。

…というより、ここに墜落してきている。

逃げなきゃ。

「い゛…っ」

…くそ、画鋲を踏んだ。それどころじゃないのに、痛みで足が言うことを聞いてくれない。

飛行機が落ちてくる。プロペラがローレライの右腕を切り刻む。

「あ゛ぁ゛あぁ゛ぁ゛っっ……!!」

右腕が吹き飛ぶ。なんで、なんでこんな。なんでこんな不条理がずっと起き続けるんだ。確かに世界は不条理だって言ったよ。限度があるだろうが。誰だこんな世界を作ったやつ。あいつか。死ね。

ぐらぐらする頭で考える。ここはもしかして、私に代償を与えるためだけの世界で。

___________エデンのことを忘れるまで、こんな不条理がずっと続くの?

…家の中から、画鋲に紛れて数本の包丁が飛んでくる。右腕を失って貧血でへたりこんでる私には、もう避けようがない。

ざくざくざく。…前から刺されると、後ろから刺された時とは全然違うタイプの激痛が来るのか。はは。勉強になった。テストとかに出るかな。

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ローレライの目から、光が消える。

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目が覚める。…ここは……

「…あの、山……」

ががん。足元が崩れる。

「いきなり…本当に、そういう世界なのね…」

そう呟きながら、崩れる足場を回避する。崩れた先には鋭い鍾乳石が待ち構えている。…危なかった。

「(……?)」

ぼろぼろぼろ。涙が溢れ落ちる。

「(……なんで…?)」

これから迫り来る無限の苦痛への恐怖?もうエデンに会えない、彼のことを忘れないと解放されないという絶望?それとも心身の限界を超えたことによる生理現象?それとも…

わからない。でも私は、彼のことを忘れる訳にはいかない。絶対に忘れてたまるか。

突如、自分の靴が凍る。対応できずに足を滑らせ、鍾乳石に頭から落ちていく。

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無間地獄は、終わらない。

彼女が全てを諦めるまで。

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